この記事は54歳のときに出会った14歳年上の男性との恋を綴った、ノンフィクションを交えた物語です。
アラカン恋愛 14年上の彼 #3
お湯が沸く間にコーヒーミルと豆を取り出しゴリゴリとひき始めるメガネさん。どうせインスタントかドリップバッグだろうと思っていた私はさらに驚いた。
「へー、本格的ですね。」
「いつもこれです、馬鹿の一つ覚え。」
と言いながら、ひたすら手をまわしている。山の上の展望台に響くコーヒーをひく音と鳥のさえずりの不思議なコラボ。そのうちにコーヒー豆のいい香りがしてきた。
お湯が沸き始め、他の2人もそれぞれ自分のカップを持って集まってきた。コーヒーを淹れるのはメガネさん、と決まっているようである。
慣れた手順でコーヒーを淹れるメガネさんはプラスチックのカップに私の分を注いで
「どうぞ。」と手渡してくれた。暖かい…。
「いただきます。」と、一口飲んだ。
正直な話コーヒーにはちょっとうるさい私なので、せっかくのコーヒーをプラスチックのコップで飲むのは躊躇した。だが初対面で、しかも淹れてもらっておいてそんなことは言えない。
そして、それを差し引いても山でひき立てのコーヒーを飲むなんて人生で初めての経験だった。しかも男性が淹れてくれたコーヒーだなんて。
「美味しいです」そう言うと、メガネさんが
「実を言うと僕たち、心配していたんですよ。」と言った。
何を心配していたんだろう?と思ったら、あんな朝早い時間に車が上がってくること自体が珍しいことだったし、女性が1人で崖の端の方に向かって行くし、もしかしたら自殺でもするつもりなんじゃないかと思った、という。
「そうしたら、どこかに行ってしまったし、また帰ってきて崖の方に行くから何をしているんだろう?と心配になって声をかけたんです。」
そう言って心配そうに私の顔を覗き込んだ。まさかの言葉に、びっくりするやら可笑しいやら。
「え、そんな風に見えましたか?」と半ば笑いながら言うと3人は顔を見合わせた。
「はい、そんな風に見えましたが違いますか?」とメガネさんが言うので
「写真を撮りに来ただけですよ。」と答えた。
そして、風景写真を撮るのが好きなことや雑貨店を開くことなどを話した。
「開店の準備ができたので、嬉しくて朝日を見に来たんです。決意表明みたいなことをしたくて。」
私が自殺をするつもりではないことが分かったメガネさんは
「僕は山に登るのが好きで、山のガイドをしています。週末はほとんどどこかの山に登っているんですよ。」と自己紹介をしてきた。
「今回はバイク仲間と星空ミーティングをしようということになって、昨日の晩からここにきて飲みながら星の観察をしていた、という訳です。」
星空ミーティング?なんだそれ、おじさんがカッコつけちゃって、と思いましたが
「へー、星空ミーティングってなんだかおしゃれですね。」とおあいそを言っておいた。
「お店はどこに開くの?オープンしたらお祝いに行きますよ!FBとかやっていますか?」
と距離が近づいた思ったようでいろいろ聞いてきた。何よりもおじさんがFBをやっていることに驚いた。
あんまり教えて後々面倒くさいことになったら嫌だなと思ったが、コーヒーをご馳走になって気分も上がっていたのでお店の場所を教えて、FBのプロフィールを交換し合った。
メガネさんの名前は横澤史孝と言った。FBのプロフィールは、どこかの山の山頂で標識に手をかけてポーズを取っている写真でさっき言っていたことは本当らしい。スクロールすると山とバイクの写真ばかりが投稿されていた。
私の方はちょっとだけ盛った顔写真を載せていた。その写真と私を比べる様に見るので
「プロフィール詐欺です。」
と、言われる前に先手を打った。すると横澤はニコッと笑って
「そこまでではないですよ。」と言うので
そこまでって、どういう意味だ?と心の中でツッコミを入れた。
「この後、我々は山頂まで登るのですが、一緒に行ってみませんか?そんなに距離はないしきつい坂はないので、その恰好なら登れなくはないと思います。」
予想外のお誘いで驚いたし、ムリムリ。山登りなんてやったことがない私は速攻で断った。すると横澤は
「山頂の展望台からの景色も格別ですよ、なぁ。ぐるーっと全部が見渡せます!」と他の2人に同意を求めるような口調で誘ってきた。
つづく…
これまでのお話
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